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2008年3月12日 (水)

「ムネモパーク」観劇レポート

川崎市アートセンターのアルテリオ小劇場で、アートセンターオープニング企画として上演された「ムネモパーク」 Munemopark -A Mini Train World- を観劇してきました。

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タイトルの「ムネモパーク」とは、ドイツ語で「記憶の公園」とでも言う意味なのだそうです。

舞台装置は、ステージいっぱいに設置された、1/87(HOスケール)の巨大なモジュール式鉄道模型レイアウト。出演者は、実生活で鉄道模型サークルに所属し、第2の人生を模型づくりに没頭する、役者でも何でもないごく普通の4人の老人たち。丹念につくり込まれたスイスの自然の風景や建物が立ち並ぶレイアウトの中を走る列車に積んだマイクロカメラが写しだす風景を、バックのスクリーンに投影しながら、この劇ともパフォーマンスともいいかねる舞台が進行していきます。

レイアウトをつくったのも、カメラを操るのも、列車を動かすのも、そして、レイアウトとともに劇を演ずるのも彼ら。はっきりしたストーリーというものはなく、スクリーンに映る模型の風景を背景に、スイスの社会の現状や問題が語られ、つくり込まれた駅や建物、自然の風景の要所要所に列車が停車するごとに、それぞれの思いを込めてその模型をつくった老人たちの、思い出や製作のエピソードなどが語られていきます。

レイアウトの中で列車を走らせ、場面を進行させるために、新しいインド映画撮影のロケが、このスイスの風景の中で、あちこちの駅を訪れながら行われるという設定になっています。インド映画がスイスの山岳地帯を撮影地に選ぶことが多く、最近たくさんのインド人がスイスに観光に訪れるという事実が下敷きになっているのだそうですが、これは、この、ともすればとりとめのなくなるパフォーマンスを一本の糸でつなぎとめる、よく考えられた演出だと思いました。

語られるテーマは、スイスの社会、特に農業の現状や人々の生活、そして環境問題まで。いちいち統計的な数値をあげ、模型に作り込まれた風景と、出演者たちの身近に取材したドキュメンタリー映像を交えながら、現状と問題を丁寧に紹介していきます。農家の廃業、減少問題、食糧自給率、農業保護施策とそれにかかるコスト、農畜産物の消費量や廃棄量、温室ガス効果、牛が温室効果ガスを大量に出していることなどの事実も、これでもかというくらい生真面目に、丁寧に語られます。

農家の模型や、家族が団欒する風景は、みな、出演者たちの住まいをそのまま模型にして自作したもの。車のナンバープレートまでが実物通り。その映像を通して、彼らの生活が語られ、そして、記憶が語られていきます。

途中で何度かフラッシュバックという設定で、出演者が1/87の模型の世界に入り込み、自分の過去の世界を体験するという場面も出てきます。スクリーンには模型の風景の中をレイルカーに乗って線路を走ったり、歩き回ったりする出演者の姿が映し出され、彼らの思い出のエピソードが語られます。それは、ほとんどが、戦争のこと。戦争の記憶は今も彼らに深い影をおとしているのだな、と感じるエピソードがつぎつぎに語られていきました。

スイスの美しい風景の中にある、人々の生活に根ざす、深くつらい記憶、そして社会の問題。模型を使いながら、こういうパフォーマンスをつくり上げる彼らの精神の、生真面目さ、奥深さを感じる、とても興味深い作品でした。

演劇というと、どちらかというと感情に訴えるもの、右脳に訴えるものが多いように思いますが、この作品はちがいます。見終わってから、時間がたってから、ゆっくりとその意味に理解が及んでくる、理性に訴える、左脳に訴えるまれな劇、いや、パフォーマンスの一種です。

演劇作品を見るのは、おもえば、もう十数年もなかったことでした。ながいブランクを置いて最初に出会った作品がこの作品だったことを、ちょっと幸運に感じています。


技術的な視点からの追記:

レイアウトは、ベモ社製メーターゲージのHOスケール、1/87、12mmゲージの鉄道模型が使われたモジュールレイアウトです。作者は出演者をはじめとする鉄道模型サークルのメンバー。もちろんモジュールごとに作者が違い、さまざまな風景が展開しますが、スイスの地方を走る鉄道をテーマにしているので、風景のテイストに統一感があり好ましく感じました。

劇終了後、ステージに降りてレイアウトを間近に見せていただけました。特に変わった技法が使われているわけではありませんが、作り込みは本当に丁寧で、作者の思い入れが伝わってくるような作風でした。

ただ、集電不良を避けるためでしょうか、レールの側面への塗装はしていませんでしたが、列車搭載マイクロカメラでの映像ではまったく気になりませんでした。

風景の中には、スイスの一年の肉の消費量を形に表した肉の山などもあり、これは最寄りの新百合ヶ丘駅前にあるスーパーマーケットで買ってきたとおぼしい本物のハムやベーコンが貼り付けられていて、ぷんといいにおいがしてくるのには苦笑しました。

環境や農業をイメージして、鶏を入れた鳥かごや、金魚の水槽もレイアウト上に配置され、その中を列車が通り抜けるようになっていたのも、アート表現の一種としておもしろかったと思います。

コントロールはデジタルコマンドコントロールを採用。列車にマイクロカメラを搭載してレイアウトの中から走行風景をスクリーンに映すのと同時に、手持ちの小型カメラを駆使して、クローズアップや、空から見下ろすような風景も見せてくれました。

列車搭載のマイクロカメラは、集電不良を避けるためでしょう、電池式の電源としていました。じっさい、始まってすぐに列車がとまってしまい、あわてて車両を確かめたり、電気配線をなおしたりするハプニングもありました。もっとも、それも、パフォーマンスの一部に取り込んでしまっていたのは、さすがでしたが、どちらにしろ、舞台でこのような繊細な模型や機械を使うのは並大抵の苦労ではないと思います。

即興的な映像の合成やスクリーンへの投影には、マックのノートパソコンを使用していました。このオペレーターは生半可なセンスと技術ではこなせない大変な仕事だったと思います。

劇の途中で間奏曲的な設定で見せてくれた、トランクの中につくった冬景色のNゲージレイアウトは出色でした。蓋の裏にかかれた雪景色の絵が前景の樹木と融合して、とてもきれいな上品なテイストを醸し出していました。自分も、こういうものをつくりたい、と感じる作品でした。

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使われていた列車搭載マイクロカメラに類似の製品は、日本でもトレインスコープという商品名で販売されています。いままで、あちこちのイベントなどで見かけることも多かったのですが、実は、あまり評価はしていませんでした。しかし、今回の作品をみて、シーナリィが統一感を持って作り込まれていれば、とても魅力的な映像を得る事ができるのだな、と感心しました。今は私も、試してみたいと真剣に思っています。


追記の追記:

諸星さんにお会いしました。やっぱり初日にしっかり見にこられていたのですね。諸星さん、ご感想はいかがでしたか?

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コメント

観に行けばよかったかな、近いところでやってたみたいですね。

今の時期は心に余裕がなくて(^^;

トランクレイアウトは作りかけたことがありますが、視点がどうしても俯瞰になるので、途中で行き詰ってしまいました。難しいもんですね。

Gゲージのレイアウトで運転席風ビデオを撮ったことがありますが、小判型エンドレスのレイアウトではカメラをレイアウトの内側にちょっと向けると、レイアウト外側の見えて欲しくない空間を多少カットできました。線路が真ん中にならない方が、汽車の旅ぽい感じにもなりますね。

Gだったので貨車にビデオカメラをどーんと置いて撮りましたが(笑)

もへさん

たまたま近くでやっていたので、柄にも無く、見てきました。
模型ファンでもファンでなくても、一見の価値はある作品かもしれません。

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